「慢性炎症」を抑える秘訣

 1993年に、肥満と全身のくすぶり型の慢性炎症が報告されてから、糖尿病、心血管疾患、ガンからうつ病にいたるまで慢性炎症の関与が報告され、「慢性炎症が生活習慣病の共通病態である」と認識されるようになりました。

 通常の炎症は「治すための炎症」ですが、慢性炎症は「慢性病の原因」となり、「老化を促す炎症」です。慢性炎症の2大発生源は、「歯周病」と「リーキーガット」です。

 

 慢性炎症によって免疫が過剰に働き、血液中に「炎症性サイトカイン」が増えます。サイトカインは、免疫細胞どうしが情報を交換するメッセージ物質で、炎症性サイトカインのメッセージは「炎症を起こせ!」です。

 炎症性サイトカインが多い血液が全身に循環することで、身体のあちこちに炎症がおきやすくなり、花粉症や喘息、アトピー性皮膚炎などのアレルギー症状も悪化します。

 また、手足の関節炎や神経痛、腰痛や生理痛なども悪化します。

 

 さらに炎症性サイトカインが多いと、「インスリン抵抗性(インスリンが効きにくいこと)」が高まります

 すると血糖値を下げるために、すい臓からさらにインスリンが分泌され、高インスリン状態になります。高インスリンになると、血液中の脂肪が脂肪細胞にどんどん吸収されていき肥満になります。

 そして内臓脂肪が慢性炎症を発生して、炎症性サイトカインをさらに増やします。

 いずれすい臓から十分なインスリンが分泌できなくなると、糖尿病になります。

 また高インスリンになるとIGF-1(インスリン様成長因子)も多くなり、ガン細胞の増殖転移も促されます。

 

 うつ病やパニック障害も「精神疾患」ではなく、「炎症性疾患」です。

 炎症性サイトカインによって脳に軽度な炎症がおきると、頭痛やうつ病、パニック障害、ブレインフォグ(頭に霧がかかったような状態)、集中力や記憶力の低下などが引き起こされます。(*1)

 脳内で活性化したマクロファージ(ミクログリア)が放出するサイトカインは、トリプトファンから「キヌレイン」などの神経毒性物質を作り出します。そのためセロトニンが減り、神経細胞が障害されます。(*2)

 

 このように慢性炎症によって炎症性サイトカインが増えることが、全身に様々な症状を引き起こすことになるのです。

 「いかにして炎症性サイトカインを減らして、慢性炎症を抑えるか?」を探求した結果、「迷走神経」が慢性炎症を抑えるカギであることが分かりました。

 迷走神経の信号は、脾臓のマクロファージを鎮静化し、炎症性サイトカインの産生を減らすのです。(Tracey KJ. The inflammatory reflex. Nature. 2002; 420:853-859)

 迷走神経は、首の両側にある「胸鎖乳突筋」の奥を通って、胸腹部の内臓全体に分布している副交感神経です。胸鎖乳突筋のコリ(膨張)は、迷走神経を圧迫して神経伝達を妨げます。したがって胸鎖乳突筋をゆるめることによって、迷走神経の神経伝達を正常化することができると考えられます。

 しかし、胸鎖乳突筋を押したり揉んだりすると首のリンパ節が腫れて、痛くなったり首が回らなくなったりします。また首のストレッチや頚椎を矯正するといった方法では、胸鎖乳突筋をゆるめることはできません。

 開節法は、「胸鎖乳突筋をゆるめることによって迷走神経を正常化して、炎症性サイトカインを減らす」ことを目指した整体技法です。(『首をゆるめて自律神経を整える』(知道出版)に解説しています)

 

 また慢性炎症を抑えるには、食事の改善が必要です。

 リーキーガットを改善していくことで、腸の慢性炎症を減らすことが大事です。

 その食事法は、『自律神経を整える食事』(鳥影社)と『リーキーガット解消法』(日貿出版)に解説しています。

 

 

 

*1:Morris GP, Clark IA, Zinn R, Vissel B. Microglia: a new frontier for synaptic plasticity, learning and memory, and neurodegenerative disease research. Neurobiology of Learning and Memory.2013; 105:40-53

 

*2:Raison CL, Dantzer R, Kelley KW, et al. CSF concentrations of brain tryptophan and kynurenines during immune stimulation with INF-α: relationship to CNS immune responses and depression. Molecular Psychiatry. 2010; 15:393-403